われら一夜大いに飲めば寒明けぬ
われら一夜大いに飲めば寒明けぬ
森繁久弥の歌で知られる「知床旅情」の一節を思い出した。「……飲んで騒いで丘に登れば はるか国後の白夜が明ける」。いずれも青春の一コマで、懐かしくも甘酸っぱい香りを放っている。詩人の永瀬清子に、ずばり『すぎ去ればすべてなつかしい日々』という本があるように、郷愁は文芸の大きな素材の一つとなってきた。「子供にも郷愁はあるのです」と言ったのは、辻征夫だ。ところで揚句の「飲めば」とは、俳句でよく使われる日本語だが、どういう意味(用法)なのだろうか。いつも引っ掛かる。みんなで大いに飲んだ「ので」、さしもの寒も明けたのか。そんな馬鹿なことはない。飲んだことと寒が明けたこととは、まるで関係がないのである。「飲めば死ぬ、飲まなくても死ぬ」とは、どこの国の言い習わしだったか。少なくとも、こうした用法ではない。「飲めば」は、原因や条件を述べているわけではない。かといって「待てば海路の日和あり」のように、飲んでいる「うちに」と時間の経過を表現した用法と解釈すると、ひどくつまらない句になってしまう。アタボウである。日常的には、とうてい通用しない言葉遣いだと言うしかない。が、面白いことには、誰もが句の言わんとしていることは了解できる。不思議なことに、よくわかるのである。文法は嫌いなので本の持ち合わせもないが、当該項目の説明だけは読んでみたい気がする。私なりの説明がないこともないのだが、まだ自信が持てないので伏せておく。寒明けをことほぐあまりに、不勉強ぶりをさらしてしまった。
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